なぜ「ゾンビ×アイドル」が佐賀の街と経済を8年半も動かし続けるのか?
データで紐解く『ゾンビランドサガ』の経済効果、佐賀各都市の市街地変遷・日帰り観光ギャップ、
そして沼津・大洗・鷲宮との徹底比較から導く「参加型IPマーケティング」の成功法則
- 執筆・発行
- 壱観企画(代表:小西 嘉宏)
- 収録構成
- 全7章・図表13点(グラフ5点・比較表8点)・出典24件
- 登録番号
- T1810790556002(適格請求書発行事業者)
- 主な内容
- 観光誘致・商店街回遊・デジタルスタンプラリーの事例データ分析と、一般地域の周遊企画へ応用するための実務チェックリスト
- 1. 課題の本質
- 地方観光の停滞原因は「観光資源の不足」ではなく、日帰り客比率90%超(通過型観光)と大型集客拠点・中心商店街の空間分断にある(宿泊単価は日帰りの約5.3倍)。
- 2. 解決の仕組み
- 「宿泊施設に2倍のスタンプを付与する広域スタンプラリー(198箇所)」と二次交通・個店網の結合により、参加者22,544人(前年比2.6倍)・施設動員5倍超を達成。
- 3. 施策の持続性
- 単発イベントで終わらせず、来訪者が「地域を盛り上げる当事者」として参加するSAPフレーム(Story→Action→Participation)とアプリ不要のデジタル周遊設計が高い効果を生む。
表1:本調査報告書で検証する5大分析テーマと主要定量データ(確定実績値・モデル推計値・一次情報源一覧)
| 調査・分析テーマ | 本報告書で検証する主要データ(確定実績値・モデル推計値) | 一次情報源・データ区分 |
|---|---|---|
| 1. 広域周遊・スタンプラリー・インバウンド誘客 |
・夏季スタンプラリー(198箇所・宿泊2倍加点)参加者 22,544人(前年度比約2.6倍)・7月応募ハガキ 約2.83倍 ・唐津市歴史民俗資料館 1日特別公開来場 1,000人超(前年比5倍以上・日換算10倍) ・2019年佐賀県外国人観光客 125.9万人(前年比約2.02倍) ※複合要因含む |
【確定実績】 佐賀県観光連盟・自治体国際化協会(CLAIR)・追手門学院大学紀要・佐賀大学経済学部研究報告書 |
| 2. 地場産品コラボ・映画興行・自治体GCF |
・村岡屋「さが錦」コラボ売上が当初予想の1.5倍(12月工場フル稼働) ・劇場版『ゆめぎんがパラダイス』全世界興収4億円突破(宇宙科学館累計600万人達成) ・佐賀市バスGCFが開始4日で目標300万円突破・最終560.2万円(達成率186.7%) |
【確定実績】 たびらい佐賀・エイベックス公式発表・佐賀県立宇宙科学館発表・佐賀市広報課・毎日新聞 |
| 3. 2027年アリーナMICE興行と地域経済波及 |
・2027年4月SAGAアリーナ凱旋EXPO:単一興行経済波及効果 約4.3億〜5.4億円(中央値4.76億円)推計 ・県内直接消費 約2.8億〜3.5億円 / 佐賀市関連事業費 2,808万円(投資乗数約15〜19倍) |
【産業連関モデル推計】 佐賀県SAGAアリーナ公式試算実績(羽生結弦公演・B'z公演等)の産業連関乗数(1.538)準拠 |
| 4. 地方都市の市街地変遷と日帰り観光ギャップ |
・県観光客数は3,537万人(H26)へ4.5倍化した一方、日帰り比率92.0%と通過型化 ・佐賀市中心街通行量は郊外3大SC開業で1985年ピーク比1/3(5.2万人)へ縮小後、近年8万人へ回復。唐津市も日帰り89.7%・市内周遊率1〜7%の課題 |
【確定実績+基準換算】 佐賀県観光客動態調査・佐賀市都市再生整備計画(第2期)・内閣官房デジ田構想・唐津データバンク |
| 5. 先進聖地(沼津・大洗・鷲宮)との構造比較 |
・静岡県沼津市:単年経済波及 50.8〜61.4億円・案内所来訪 8.8倍・まちあるきスタンプ 97箇所 ・茨城県大洗町:年間直接効果 7.21億円・あんこう祭 14万人・商店街 66%増収 ・埼玉県久喜市鷲宮:3年累計波及 約22億円・初詣客 約5.2倍(47万人) |
【確定実績・学術推計】 NAIS論文・追手門学院大学紀要・野村総合研究所(NRI)推計・筑波大学地域研究年報 |
本レポートでは、分析の客観性と正確性を保つため、引用するすべてのデータについて「一次資料に明記された確定実績値」と「公的モデルに基づく推計値・逆算値、および複合要因を含む指標」を厳密に区別して表記しています。社内での検討資料や企画立案にご活用いただく際は、以下の前提にご留意ください。
- 2019年の佐賀県外国人観光客数(125.9万人・前年比約2.02倍)における複合要因:数値自体は佐賀大学経済学部研究報告書(p.7 図表5・佐賀県観光統計)の確定値であり、CLAIR報告でも台湾からの聖地巡礼ツアー催行やアジア圏からの問い合わせ急増が裏付けられています。ただし、前年比+63.5万人の増加すべてがアニメ単独の効果ではなく、当時の九州全体のインバウンド需要拡大や九州佐賀国際空港の国際線拡充などのマクロ要因と、アニメによる認知拡大が重なった複合的成果として解釈する必要があります。
- 2027年4月「SAGAアリーナ凱旋EXPO」の経済波及効果(約4.3億〜5.4億円・中央値4.76億円):未来の開催イベントであるため確定実績値ではなく、佐賀県が県の産業連関表を用いて公式算出したSAGAアリーナ過去興行実績(羽生結弦公演:波及4.82億円、B'z公演:波及3.86億円)の波及乗数(約1.538)と県外客比率(80〜85%)を適用した本調査によるモデル推計値です。
- 2018年度の夏季スタンプラリー参加者数(約8,670人):2019年度の参加者数「22,544人(前年度比約2.6倍)」(追手門学院大学紀要2023)という確定値から、
22,544人 ÷ 2.6倍として算出した逆算参考値です(7月応募ハガキ数の「672件→1,903件[約2.83倍]」は佐賀県観光連盟発表の実数確定値です)。 - 1985年(昭和60年)の佐賀市中心市街地通行量ピーク(約15.6万人):佐賀市都市再生整備計画にある「昭和60年をピークに減少」「平成15年時点でピーク時の約3分の1へ減少」「令和3年実測値が52,168人(約5.2万人)」という記述に基づき、
約5.2万人 × 3倍としてスケール比較用に算出した基準換算参考値です。 - 独立調査・権利帰属に関する表記(著作権法第32条・商標法第26条準拠):本報告書は公開統計・自治体発表資料・学術論文に基づき壱観企画が独自に分析・編纂した非公式の独立調査研究報告書であり、本文中で言及する各アニメ作品の製作委員会・版権元・関係自治体等の公式発表資料や公認提携商品ではありません。本報告書内の図表・グラフはすべて統計データから独自作成したものであり、作品画像・公式ロゴ等は一切使用しておりません。記載されている作品名・会社名・製品名等の名称および商標は、各権利者に帰属します。
第1章|「魅力がない」のではなく「知られていない」だけだった──データが暴く佐賀県の認知ギャップと先行事例『ユーリ!!! on ICE』の布石
「アニメやキャラクターとコラボしたものの、放送が終わると同時にブームが去ってしまった」「観光客数は増えているはずなのに、駅前の中心商店街には人が歩かず、宿泊や飲食にお金が落ちない」──これは、全国の自治体や地域プロモーションに携わるマーケティング担当者から最も多く聞かれる悩みです。
そうした中、2018年10月のテレビアニメ第1期放送から、2021年の第2期『ゾンビランドサガ リベンジ』、2025年10月公開の劇場版『ゾンビランドサガ ゆめぎんがパラダイス』、そして2027年4月に開催される九州最大級・SAGAアリーナでの凱旋ライブ&EXPOに至るまで、8年半以上にわたって地域経済とファンの熱量を動かし続けている稀有なプロジェクトがあります。佐賀県全20市町を舞台にしたオリジナルアニメ『ゾンビランドサガ』です(一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)事例報告、追手門学院大学地域創造学部紀要)。なぜ、この作品は単年度のキャンペーンで終わらず、地場企業の工場をフル稼働させ、クラウドファンディングをわずか4日間で達成させ、空洞化していた地方都市の中心市街地に人を呼び戻すことができたのでしょうか。
1.1 人口減少に直面する佐賀県の「域内評価43.7% vs 関東評価21.4%」という情報ギャップ
マーケティングの第一歩は「現状の課題(ボトルネック)の正確な特定」にあります。佐賀県統計分析課のデータおよび佐賀大学経済学部山本研究室の研究報告書(2024年)によると、佐賀県の総人口は1955年の973,749人をピークに減少へ転じ、2022年には800,511人となりました。2022年には自然減が過去最多の5,653人(出生5,552人・死亡11,205人)に達し、若年女性層を中心とする福岡・東京圏への転出超過も続く中、定住人口の減少を補う「交流人口・関係人口の拡大」は地域経済の死活問題となっていました。
しかし、観光誘客における最大の壁は「九州外における圧倒的な認知不足」でした。CLAIRの事例報告が指摘する通り、2018年の都道府県魅力度ランキングで佐賀県は45位、2022年の地域ブランド調査では47位でした。ところが、回答者の居住地別データを分解すると、重要な構造的事実が浮かび上がります。
| 回答者居住地域 | 「とても魅力的」 | 「やや魅力的」 | 魅力度肯定計 | 九州居住者比 | マーケティング視点での構造的評価 |
|---|---|---|---|---|---|
| 九州地方居住者 | 8.7% | 35.0% | 43.7% | 100.0%(基準) | 実訪問率が高く、温泉・食・陶磁器・イベントの価値が定着(佐賀大学報告) |
| 関東地方居住者 | 4.5% | 16.9% | 21.4% | 49.0% | 九州域内の約半分の水準に急落し、メディア接触機会が不足(佐賀大学報告) |
| 北海道・東北居住者 | — | — | 17.8% | 40.7% | 遠隔地ゆえに具体的な観光イメージが形成されにくい構造(佐賀大学報告) |
| 近畿地方居住者 | — | — | 16.3% | 37.3% | 福岡・長崎への通過点となりやすく、指名訪問動機の創出が必要(佐賀大学報告) |
| 全国総合(2022年) | 4.5% | 17.8% | 22.3% | 51.0% | 前年(計21.1%)から1.2pt改善するも、首都圏・関西圏の低さが影響(佐賀大学報告) |
実際に佐賀県を訪れる機会が多い九州居住者では43.7%が魅力を感じているのに対し、関東では21.4%、近畿では16.3%と半分以下に落ち込んでいます(佐賀大学経済学部研究報告書)。佐賀県には、5日間で約80万人が集まる「佐賀インターナショナルバルーンフェスタ」や約100万人が訪れる「有田陶器市」、唐津くんち・呼子のイカ・嬉野温泉・武雄温泉など一級の観光資産が揃っています。つまり問題は「プロダクト(観光資源)の質」ではなく、「首都圏・関西圏・海外の生活者が佐賀県を自分事として認知し、わざわざ目的地に選ぶための強力なブランドストーリーの欠如」にあったのです。
1.2 先行事例『ユーリ!!! on ICE』が証明した「2年間で6万人・経済効果4億円超」の衝撃
この認知ギャップを突破する契機となったのが、県の情報発信プロジェクト「サガプライズ!」等を通じたアニメ・ゲームIPとの連携であり、とりわけ2016年10〜12月に放送されたフィギュアスケートアニメ『ユーリ!!! on ICE』(制作:MAPPA)の成功でした。唐津市をモデルとした架空の街「長谷津町」が登場した同作では、コラボ期間中(約2ヶ月)に世界27カ国から延べ約2万4,000人が来訪し、2016〜2018年の2年間では約40カ国・地域から6万人以上が唐津市を訪れ、宿泊者約2万人・4億円以上の経済効果をもたらしました(佐賀大学経済学部研究報告書、データのじかん、マネーポストWEB)。
第2章|公費発注ゼロで「30分×12話オール佐賀」を実現──製作委員会×県庁の共創ガバナンスと8年半のライフサイクル
2.1 「自治体の下請けPR動画」ではないからこそ大ヒットが生まれた
自治体が公費を投じて制作する「ご当地PRアニメ」の多くが苦戦する理由は、行政側の要望(「あれもこれも紹介してほしい」「ネガティブな表現は避けてほしい」)が優先され、エンターテインメントとしての面白さが損なわれることにあります。これに対し『ゾンビランドサガ』は、佐賀県伊万里市出身である株式会社Cygamesの渡邊耕一社長が2016年に佐賀県フィルムコミッションへ「故郷・佐賀を舞台にゾンビとアイドルのオリジナルアニメを作りたい」と相談したことを起点としつつ、制作費はMAPPA・エイベックス・ピクチャーズ・Cygamesの民間3社による製作委員会が100%リスクを負う純粋な商用作品として企画されました(CLAIR報告、追手門学院大学紀要)。
一方、佐賀県庁(広報広聴課・フィルムコミッション)は制作資金を出す代わりに、民間企業だけでは突破しにくい現場課題を徹底的にサポートしました。追手門学院大学紀要における佐賀県広報広聴課へのヒアリングによれば、県職員が制作陣のロケハンに同行してローカルなネタを提案し、県立学校・重要文化財・神社仏閣・地元工場(小島食品工業等)の取材許認可を円滑化し、幕末の歴史エピソード(第2期「佐賀事変」)では博物館学芸員への専門取材を仲介しました。作中で「佐賀県は風前の灯火」といった自虐ネタが登場することに対しても、県担当者は「自虐ネタは全く気にしていない。民間3社の製作委員会で『30分×12話、オール佐賀』。これ以上のPRはない」と懐の深い姿勢を貫き、放送開始直後の2018年10月20日には山口祥義知事が劇中グループ「フランシュシュ」を「佐賀県PR大使」に任命しました(唐津市公式ホームページ)。
2.2 単発ブームで終わらせない「4つの展開フェーズ(2018〜2027年)」の設計
さらにマーケティング戦略上注目すべきは、以下のように8年半以上にわたって話題のピークを創出し続ける「多段階のIPライフサイクル設計」です。
| 展開フェーズ | 対象期間 | 中核コンテンツ・施策 | 主要KPI・動員・興行指標(確定実績) | マーケティング・地域連携上の役割 |
|---|---|---|---|---|
| Phase 1 創生・爆発期 |
2018年10月〜 2019年12月 |
・TV第1期(全12話)放送 ・2019年7月唐津アルピノ凱旋LIVE ・第5回全国ふるさと甲子園 |
・ニコニコ総選挙2018年間大賞1位&TAAF2019作品賞グランプリ二冠(PR TIMES) ・アルピノLIVE+LV(3月公演と計2万人超動員) |
知事による「佐賀県PR大使」任命、198箇所スタンプラリーと初期コラボ商品の完売ラッシュで聖地ブランドを確立。 |
| Phase 2 広域定着・DX期 |
2020年1月〜 2024年12月 |
・TV第2期『リベンジ』放送(2021年4〜6月) ・QRデジタルスタンプラリー展開 ・全20市町マンホール設置 |
・県内約200スポットのQRデジタル周遊網構築(PR TIMES) ・第1〜3弾で全20市町に計30枚のマンホール設置完了(公式サイト) |
コロナ禍の移動制限下でも非接触型デジタルスタンプラリー周遊とEC・ふるさと納税(唐津市BD-BOX、佐賀市・伊万里市ドラ鳥返礼品)で関係人口を維持。 |
| Phase 3 劇場版再沸騰期 |
2025年1月〜 2026年6月 |
・劇場版『ゆめぎんがパラダイス』全国127館公開(2025年10月24日) ・4DX上映・伊万里湾大花火2025 |
・公開17日間で興収2億2,673万円・動員14.5万人 ・累計で全世界興行収入4億円突破(エイベックス公式) ・宇宙科学館が公開日に累計入館600万人達成 |
武雄市(宇宙科学館ゆめぎんが)や佐賀市(SAGAアリーナ・バルーンフェスタ)を新たな中核聖地として再定義しマンホール32枚へ拡大。 |
| Phase 4 大型MICE統合期 |
2026年7月〜 2027年4月以降 |
・佐賀市×製作委員会 連携協定(2026年7月10日) ・市営バス「フランシュシュ号」復活 ・SAGAアリーナ凱旋EXPO(2027/4) |
・佐賀市GCFが4日で目標300万円突破・最終560.2万円調達 ・佐賀市関連総事業費2,808万円計上(毎日新聞) ・SAGAアリーナ2Days即時完売+文化会館LV決定 |
8,400人収容のSAGAアリーナと県内企業14団体出展EXPOを核に、単一興行で4.3〜5.4億円規模(推計)の波及を生むMICEモデルへ進化。 |
第3章|数字で見る『ゾンビランドサガ』の経済インパクト──スタンプラリー動員・地場企業コラボ・GCF・アリーナ興行
3.1 スタンプラリー参加者22,544人(約2.6倍)・聖地施設動員5倍超・インバウンド倍増
まず観光誘客の直接的なエビデンスとして最も信頼性が高いのが、一般社団法人佐賀県観光連盟が毎年7〜9月の同一条件で実施している夏季スタンプラリーの前後比較データです。2019年7月〜9月に開催された『〜フランシュシュと行ってこんね!〜「佐賀県×ゾンビランドサガ」スタンプラリー』では、県内7エリアの観光施設・店舗101スポットと宿泊施設97スポット(計198スポット)にスタンプを設置し、「宿泊施設には通常の2倍(2個)のスタンプを押印する」というインセンティブ設計を導入しました(佐賀県観光連盟2019年8月プレスリリース)。
その結果、7月単月の応募ハガキ数は前年の672件から1,903件(約2.83倍)へと急増し、3ヶ月間の累計応募数は16,000件以上、総参加者数は前年度比約2.6倍となる22,544人(逆算による前年度推計値:約8,670人)を記録しました(佐賀県観光連盟2020年プレスリリース、追手門学院大学紀要)。翌2020年以降はスマートフォンでQRコードを読み取るデジタルスタンプラリー(県内約200スポット)へと進化し、非接触での広域周遊インフラとして定着しています。
出典:佐賀大学経済学部研究報告書(2024)、佐賀県観光連盟プレスリリース(2019・2020)、追手門学院大学紀要(2023)、CLAIR報告(2019)より作成
個別の聖地施設でも劇的な動員増が記録されています。フランシュシュの拠点洋館のモデルとなった「唐津市歴史民俗資料館(旧三菱合資会社唐津支店本館)」では、2018年11月25日の1日限定特別公開に全国から1,000人以上が来場し、前年(2日間で約200人)の5倍以上(1日あたり換算で約10倍)に達しました(CLAIR報告)。また佐賀県庁展望ホールの夜間プロジェクションマッピング「ゾンビナイトサガ」(2019年7月〜)は、従来の無料から初の有料化(500円)に踏み切ったにもかかわらず、お盆10日間だけで約2,300人を動員し、翌年の非コラボ年と比較して約2倍の集客を達成しました(追手門学院大学紀要)。さらに2025年10月24日には、劇場版のタイトル舞台となった武雄市の「佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》」が映画公開当日に累計入館者600万人を達成し、スタッフ手作りの聖地展示や解説YouTube動画をきっかけに全国のファンがリピート来館する好循環を生んでいます(宇宙科学館公式発表、Cygames Magazine)。
3.2 地場企業50社超のコラボ物販・全20市町32枚のマンホール・GCF開始4日達成
作中のアイキャッチやエピソードには延べ50社以上の県内企業・団体が登場しており(追手門学院大学紀要)、単なるPRにとどまらない実売上を生んでいます。
| 企業・自治体施策 | コラボ商品・プロジェクト内容 | 価格・目標規模 | 検証された売上・生産・調達インパクト(確定実績) |
|---|---|---|---|
| 株式会社村岡屋 (佐賀市) |
佐賀銘菓「さが錦」コラボパッケージ(たびらい佐賀) | 1箱4個入 648円 | 開店前に行列・即完売が続出し、当初予想の1.5倍の売れ行きを記録。手作り工程を含む工場が12月に入りフル稼働状態へ。 |
| ドライブイン鳥 (伊万里市・佐賀市) |
店頭「一番定食スペシャル」、CyFoods連携「冷凍鳥めし」外販・ふるさと納税 | 店頭定食 2,138円 寄付額 14,000円 |
年間8万食の看板商品「鳥めし」を冷凍化し全国EC・武雄温泉物産館・佐賀市/伊万里市ふるさと納税第1弾・第2弾へ販路拡大。 |
| 小島食品工業・竹下製菓・萬坊・カフェモカ | 珍味おつまみ&社歌配信、ブラックモンブラン、いかしゅうまい、いちごパフェ | 各社限定パッケージ・2027年EXPO出展 | 既存名産品にアニメパッケージを掛け合わせることで開発リスクを抑えて県外土産需要を獲得。嬉野「カフェモカ」には毎日巡礼客が来店。 |
| 全20市町マンホール&市営バス乗車券 | 県内全20市町「ゾンビランドサガマンホール」&佐賀市営バス「フランシュシュ号」 | 全20市町 計32枚 乗車券セット8,000円+nimoca 3,000円 |
全市町コンプリート周遊の物理インフラとして定着。バス1日乗車券全8種セット+限定nimocaで1人最大11,000円の交通局収益を創出。 |
| 佐賀市ガバメントCF (2026年8月) |
ふるさと納税型CF「フランシュシュ号大復活プロジェクト」(佐賀市広報課発表) | 目標金額 300万円 | 受付開始からわずか4日間で目標300万円達成、8/25市長会見時380万円、最終5,602,000円(達成率186.7%)を全国ファンから調達。 |
出典:佐賀りあん(佐賀市広報課発表)、佐賀市令和8年8月25日市長記者会見資料、毎日新聞(2026年8月26日)より作成
3.3 2027年4月「SAGAアリーナ凱旋EXPO」の経済波及効果推計(約4.3億〜5.4億円)
2025年10月公開の劇場版『ゆめぎんがパラダイス』は全世界興行収入4億円突破(国内17日間で興収2億2,673万円・動員14.5万人)を記録し(エイベックス公式発表)、劇中のクライマックス会場として描かれた「SAGAアリーナ」(最大収容8,400人)にて、2027年4月23日〜25日に『ゾンビランドサガLIVE〜フランシュシュ SAGA EXPO 2027〜 in SAGAアリーナ』が開催されます(劇場版公式サイト)。佐賀市はこれに合わせて2026年7月10日に製作委員会と連携協定を締結し、2カ年総事業費2,808万円(2026年9月補正1,784万円+2027年度分1,024万円)を計上しました(毎日新聞)。
この単一イベントが佐賀県内にもたらす経済波及効果を客観的に試算するため、佐賀県がSAGAアリーナの過去3大興行について県の「産業連関表」を用いて公式算出したベンチマーク(佐賀経済新聞、佐賀大学経済学部研究報告書)を適用します。県公式試算では、県内客8割だった「プリンスアイスワールド(16,500人)」の経済波及効果が約9,380万円だったのに対し、県外客8割だった「B'z公演(11,000人)」は約3億8,600万円(直接消費2.5億円)、「羽生結弦公演(10,600人)」は約4億8,210万円(直接消費3億1,409万円:宿泊1億4,535万円・飲食7,521万円・買物6,354万円・交通2,999万円)と、県外遠征客の宿泊・買物が波及効果を4〜5倍に押し上げることが実証されています。
出典:佐賀経済新聞(佐賀県公式試算発表)、佐賀大学経済学部研究報告書、れポたま!(2026年10月)より作成
| モデル推計シナリオ (※本調査試算) |
想定延べ動員数 (本公演+LV+EXPO) |
県外来場者比率・ 県内宿泊率前提 |
県内直接消費額 (モデル推計) |
県内経済波及効果 (乗数1.538適用) |
推計の前提条件・根拠 |
|---|---|---|---|---|---|
| 保守的シナリオ (B'z公演準拠) |
延べ13,000人 (アリーナ2Days+文化会館LV) |
県外比率 80% 消費単価はB'z公演並み |
約2億8,000万円 | 約4億3,000万円 | 本公演2Days即時完売+佐賀市文化会館中ホールLVの最低動員ベース |
| 標準シナリオ (羽生公演+EXPO) |
延べ15,500人 (本公演+LV+3日間EXPO) |
県外比率 82% 県外客の7割以上宿泊 |
約3億1,000万円 | 約4億7,600万円 | 前日4/23からのサブアリーナ県内14団体出展EXPOとJTB公式宿泊ツアー反映 |
| 積極的シナリオ (広域長期滞在) |
延べ18,000人 (物販・聖地周遊組含む) |
県外比率 85% 2泊3日以上の県内周遊 |
約3億5,000万円 | 約5億3,800万円 | さがMICE商店および唐津・伊万里・武雄・嬉野への前後泊周遊が最大稼働 |
第4章|「観光客3,537万人」なのに商店街が寂れる理由──佐賀各都市の市街地変遷と、デジタル周遊が埋めた「都市の分断」
4.1 データが示す佐賀県観光の最大の弱点:「日帰り客比率92%・通過型観光」への偏重
ここからは視点を変え、「都市構造と観光消費のギャップ」を掘り下げます。そもそも佐賀県は観光客数が少なかったわけではありません。佐賀県観光課『平成26年度 佐賀県観光客動態調査』の長期データを見ると、県の年間総観光客数は1965年(昭和40年)の793.0万人から、1985年(昭和60年)に1,895.4万人、1996年(平成8年)に3,349.7万人、2014年(平成26年)には3,536.7万人へと約4.5倍に成長しました。しかし、その内訳には深刻な歪みがありました。
| 調査年度 | 年間総観光客数 | うち日帰り観光客数(構成比) | うち宿泊観光客数(構成比) | 1人あたり観光消費単価 | 交通・都市構造上の時代背景とギャップ要因 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1965年度 (昭和40年度) |
7,930千人 | 6,753千人(85.2%) | 1,177千人(14.8%) | 427円 | 国鉄・路線バス中心の移動期。中心市街地の商店街・映画館が地域の商業核として機能(県動態調査) |
| 1985年度 (昭和60年度) |
18,954千人 | 16,668千人(87.9%) | 2,286千人(12.1%) | 3,023円 | 長崎自動車道開通初期。佐賀市中心市街地の歩行者通行量が歴史的ピークを記録(佐賀市計画) |
| 1996年度 (平成8年度) |
33,497千人 | 30,275千人(90.4%) | 3,222千人(9.6%) | 3,572円 | 世界・炎の博覧会開催で観光客3,300万人突破。一方で佐賀市中心街の大型店撤退が始まる(県動態調査) |
| 2006年度 (平成18年度) |
28,187千人 | 25,572千人(90.7%) | 2,615千人(9.3%) | 3,312円 | 郊外大型SC(イオン大和・モラージュ・ゆめタウン)開業完了。日帰り客9割超が定着(佐賀市計画) |
| 2014年度 (平成26年度) |
35,367千人 | 32,529千人(92.0%) | 2,838千人(8.0%) | 3,021円 | 総観光客は過去最高水準だが92%が日帰り客。1人あたり消費額も1985年水準(約3千円)に停滞 |
| 2024〜2025年 (令和6〜7年) |
唐津市単独: 3,756千人 |
唐津日帰り: 3,370千人(89.7%) |
県延べ宿泊: 2,356,860人泊 |
日帰り 4,712円 宿泊 25,134円 |
県客室稼働率52.4%(全国34位)、外国人宿泊比率10.7%(全国平均27.2%)(唐津データバンク) |
総観光客数が2,744万人も増えたにもかかわらず、そのほぼすべてがマイカーや観光バスによる日帰り客であり、日帰り客比率は85.2%から92.0%へと上昇(宿泊客はわずか8.0%)しました(佐賀県観光客動態調査)。福岡都市圏との近さや高速道路網の発達が、佐賀県を「福岡や長崎のついでに車で立ち寄ってすぐ帰る通過地」に変えてしまい、1人あたり消費額は3,021円と30年間横ばいにとどまったのです。唐津市の2024年統計でも観光客の89.7%が日帰りであり、消費単価は宿泊客(25,134円)に対して日帰り客(4,712円)は約5分の1にすぎません(唐津データバンク)。
4.2 佐賀市中心市街地の盛衰:郊外3大モール進出で通行量が1/3へ激減し、南北分断が新たな課題に
同時に、県内各都市の「中心市街地」もモータリゼーションの波に洗われました。『都市再生整備計画(第2期)佐賀市中心市街地地区』によれば、佐賀市中心市街地(白山・呉服元町・唐人町・中央大通り)の歩行者・自転車通行量は1985年(昭和60年)に歴史的ピークを迎えた後、1996〜2000年の5年間で中心街の大型商業施設5店舗が相次いで閉店・撤退し、再開発ビル「エスプラッツ」も2001年7月にTMOが自己破産、2003年2月に商業フロア全面閉鎖という危機に陥りました。
決定打となったのが、2000年9月の「イオンショッピングタウン大和」(38,200㎡)、2003年3月の「モラージュ佐賀」(37,100㎡)、2006年12月の「ゆめタウン佐賀」(58,000㎡)という郊外型超大型SC(3施設合計13万3,300㎡)の連続開業でした。これにより2003年時点で中心市街地の通行量は昭和60年ピーク時の約3分の1(日曜日は約4分の1)にまで激減しました(佐賀市都市再生整備計画)。その後、佐賀市は公共施設の街なか誘導や「コムボックス佐賀駅前」(2020年)、「サガハツ」(2023年)、中央大通りの歩道拡幅(3.5m→最大11.5m)を進め、通行量を2021年の52,168人から2023年には約8万人(+53%回復、目標10万人)へと戻しています(内閣官房デジ田メニューブック)。
出典:佐賀県観光客動態調査(平成26年度)、佐賀市中心市街地地区都市再生整備計画(第2期)、内閣官房デジタル田園都市国家構想メニューブックより作成
しかし現在、佐賀市には「JR佐賀駅の北側約1.4kmにあるSAGAアリーナ・ゆめタウン」と「駅南側の歴史的商店街(656広場・呉服元町・唐人町・佐賀城)」の南北分断という新たな空間ギャップが生じています(佐賀大学経済学部研究報告書)。唐津市・武雄市・嬉野市・伊万里市・鳥栖市も含め、各都市が抱える空間的ギャップと『ゾンビランドサガ』(およびスタンプラリー・マンホール・二次交通)が果たした役割を整理すると以下の通りとなります。
| 都市名 (人口規模) |
市街地発展・変遷の歴史的特徴 | 観光客数と中心街滞在のギャップ課題 | 『ゾンビランドサガ』&デジタル周遊による空間接合・回遊効果 |
|---|---|---|---|
| 佐賀市 (約22.9万人) |
1985年通行量ピーク後、2000〜06年の郊外3大SC開業で中心街通行量が1/3(5.2万人)へ激減。近年は駅周辺再開発と歩道拡幅で8万人へ回復 | 駅北側のSAGAアリーナ(8,400人収容)・ゆめタウンと、駅南側の歴史的商店街(656広場・唐人町・呉服元町)が南北に分断。夜間営業店舗も不足 | 第1話ライブ聖地「656広場」、佐賀城本丸、県庁展望ホール(ゾンビナイト)、SAGAアリーナを市営バス「フランシュシュ号」と市内スタンプラリーで南北直結 |
| 唐津市 (約11.6万人) |
城下町・石炭積出港として発展。近年は国道202号バイパス沿い(イオン唐津等)へ商業が郊外化。2019年10月に中心街で複合商業施設「KARAE」が開業し約30年ぶりに映画館が復活 | 2024年観光客375.6万人の89.7%が日帰り。KARAEと郊外イオンが5.7km(徒歩1時間超)離れ、駅ビル推奨滞在時間は1時間未満。GPS市内周遊率はわずか1〜7% | 唐津駅北口「アルピノ」〜京町・呉服町商店街〜唐津城〜「旧三菱合資会社唐津支店本館(歴史民俗資料館)」が徒歩・レンタサイクル圏(約1.5km)に集積し、城下町回遊を創出 |
| 武雄市・嬉野市 (約4.7万 / 2.4万人) |
長崎街道の宿場町・温泉街として発展。武雄市は2013年の武雄市図書館改修で年間92万人を集客。2022年9月に西九州新幹線(武雄温泉駅・嬉野温泉駅)が開業 | 新幹線開業1ヶ月で来訪者が武雄市+90%・嬉野市+73%急増したが、移動時間短縮により長崎市への「通過型観光」になるリスクと、駅から温泉街中心部への徒歩回遊ギャップが存在 | 劇場版タイトル舞台「佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》」(累計600万人達成)、武雄温泉楼門、嬉野温泉「カフェモカ」「華翠苑」「豊玉姫神社」が若年層の温泉街徒歩散策・宿泊を牽引 |
| 伊万里市・鳥栖市 (約5.1万 / 7.4万人) |
伊万里は古伊万里積出港から工業・ロードサイド型へ移行し、歴史的本町通りは「伊万里まちなか一番館」等で再生模索。鳥栖は九州最大の交通結節点・アウトレット都市として人口増 | 伊万里はマイカー日帰り客が中心で市街地と郊外店舗が離間。鳥栖はJリーグ・アウトレット集客が年間数百万規模に達する一方、市内中心部への立ち寄りが少ない | 伊万里は郊外の「ドライブイン鳥」「小島食品工業」と駅前の「伊万里駅」「本町マンホール」をセット巡礼化。鳥栖は「駅前不動産スタジアム」と駅周辺マンホールで鉄道来訪者を誘導 |
第5章|沼津『ラブライブ!』・大洗『ガルパン』・鷲宮『らき☆すた』と何が違うのか?──4大聖地の定量・構造比較
5.1 先進3地域(沼津市・大洗町・久喜市鷲宮)が叩き出した驚異的な定量実績
ここで、日本のコンテンツツーリズム史を代表する3つの成功事例と佐賀県のデータを比較します。学術論文および産業連関試算によって検証されている先進3地域の定量実績は以下の通りです。
-
静岡県沼津市 × 『ラブライブ!サンシャイン!!』(2016年放送〜、人口約19万人・面積186.96㎢):
内浦地区「三の浦総合案内所」の年間来訪者数は、アニメ放送前の2015年(約9,000人)から2016年に39,584人、2017年に73,807人、2018年には79,175人(約8.8倍)へ急増しました(NAIS Journal Vol.14論文)。静岡県産業連関表を用いた分析では、2017年単年の聖地巡礼純増客数は302,859〜381,944人、直接消費額は29.4億〜35.6億円、経済波及効果は50.8億〜61.4億円に達しています(NAIS論文)。沼津駅前の仲見世・あげつち商店街と内浦漁港(バス約30分)を結ぶため、市内97箇所に「沼津まちあるきスタンプ(帳面500円・缶バッジ300円)」を設置し、あげつち商店街では70〜80代店主による「おかみさん会(26店)」がアニメ勉強会を開催、和洋菓子店「松月」のみかんどら焼きは1日50個から週末2日で5,600個へ急増、ファンのリピート率は84%に達し移住者まで生み出しています(追手門学院大学紀要2020)。 -
茨城県大洗町 × 『ガールズ&パンツァー』(2012年放送〜、人口約1.6万人・面積23.89㎢):
2011年の東日本大震災・津波と風評被害で年間観光客数が554.5万人(2010年)から297.6万人(前年比53.7%)へ半減した大洗町は、2012年10月の放送開始を機に407.8万人(前年比+37.0%、+110万人)へとV字回復し、2019年には441.3万人へ拡大、「大洗あんこう祭」来場者も約3万人から過去最高14万人(約4.7倍)を記録しました(自治研レポート、全国町村会)。野村総合研究所(NRI)推計による年間直接経済効果は7億2,100万円、2020年コロナ禍CFでは3,602人から4,686万4,000円を調達しました。商店街(曲がり松・大貫等)の約100店舗に等身大パネル54体+戦車パネル45両を設置し、600種・100万個超の手作り缶バッジ(卸値45円)と隔週の「ガルパン相談会(版権許諾支援)」を展開した結果、曲がり松商店街の66%(38店中25店)、大貫商店街の52%(25店中13店)で売上が増加し(筑波大学地域研究年報)、10年後も協力事業者の65%が事業を継続しています(追手門学院大学紀要2023)。 -
埼玉県久喜市鷲宮地区(旧鷲宮町)× 『らき☆すた』(2007年放送〜):
鷲宮神社の正月三が日初詣客が放送前の約9万人から最大47万人(約5.2倍)へ急増し、商工会主導のグッズ・イベント売上は8,000万円超、埼玉県試算による放送後3年間(2007〜2010年)の累計経済波及効果は約22億円(年平均約7.3億円)を記録しました(NAIS論文)。
5.2 4地域のマトリクス比較から見えた「コンパクト凝縮型」vs「全県MICEハイブリッド型」
| 比較評価軸 | 静岡県沼津市 『ラブライブ!サンシャイン!!』 |
茨城県大洗町 『ガールズ&パンツァー』 |
埼玉県久喜市鷲宮 『らき☆すた』 |
佐賀県(全20市町) 『ゾンビランドサガ』 |
|---|---|---|---|---|
| 空間スケール・舞台構造 | 単一市域(面積187㎢、人口約19万人)。沼津駅周辺商店街と内浦漁港の二極構造(追手門2020) | 単一町域(面積23.9㎢、人口約1.6万人)。駅〜商店街〜海浜が徒歩・自転車圏に高密度凝縮(筑波大論文) | 旧町域・門前町(鷲宮神社および門前商店街約69店舗のコンパクト圏域) | 県全域(全20市町・面積2,440㎢・人口約80万人)。複数都市(佐賀・唐津・武雄・嬉野・伊万里等)を広域ネットワーク化 |
| 経済波及効果・直接消費実績 | 2017年単年:直接消費29.4〜35.6億円、経済波及効果50.8〜61.4億円(NAIS論文) | NRI推計:年間直接効果7.21億円(10年超持続)、CF調達4,686万円(自治研) | 埼玉県試算:3年累計経済波及効果約22億円(商工会物販8,000万円超)(NAIS論文) | アリーナ単一興行波及4.3〜5.4億円(推計)+劇場版興収4億円+50社超物販+GCF(560.2万円)等複合波及 |
| 拠点・イベント動員増加倍率 | 三の浦総合案内所来訪者:9,000人→79,175人(約8.8倍)、巡礼純増30〜38万人/年 | あんこう祭:3万人→14万人(約4.7倍)、町全体観光客が震災後+37%(+110万人)回復 | 鷲宮神社初詣客:9万人→47万人(約5.2倍) | 唐津市歴史民俗資料館:200人→1,000人超(5倍以上)、県夏季スタンプラリー:約2.6倍(22,544人) |
| 市街地回遊・店舗連携装置 | 「まちあるきスタンプ」97箇所・缶バッジ、仲見世七夕祭り、あげつち「おかみさん会」 | 等身大パネル54体+戦車パネル45両(約100店舗)、手作り缶バッジ100万個超、商店街66%増収 | 門前商店街スタンプラリー・大酉茶屋運営・痛絵馬奉納・土師祭みこし連携 | 全県スタンプラリー約200スポット(宿泊2倍加点)、全20市町32枚マンホール、さがMICE商店、市営バスCF |
| 推進主体とガバナンス | 商店街(おかみさん会等)・交通事業者・ファンと市の協調型(公式スタンプが求心力) | 商工会・地域プロジェクト主導のボトムアップ型(「ガルパン相談会」で版権迅速化) | 鷲宮商工会主導のボトムアップ型(行政合併後も商工会が継続) | 県庁(フィルムコミッション・広報広聴課)+市役所(佐賀市・唐津市)+Cygames等の官民トップダウン×広域連携型 |
| 物語と地域の関係性(特徴) | 「統廃合危機の地元高校を救うスクールアイドル」と沼津の街並みが重なる共感構造 | 戦車道の試合舞台として実在の商店街・建物が破壊される演出を逆手に取った歓迎ムード | 日常系4コマの背景舞台として登場した神社・商店街を商工会が積極活用 | 「佐賀県を救う」こと自体が作品の主題(SAPフレーム)。消費・寄付そのものが「物語への参加」となる最強の動機構造 |
出典:NAIS論文(2020)、追手門学院大学紀要(2020・2023)、自治研レポート、佐賀県観光連盟発表より作成
この比較から浮かび上がる最大の違いは「空間スケールと回遊設計のアーキテクチャ」です。大洗町(面積23.9㎢)や鷲宮、沼津市は、鉄道駅から商店街までがコンパクトな圏域に凝縮されており、約70〜100店舗にパネルやスタンプを並べるボトムアップ型の手法で巡礼者が自然に個店へ吸い込まれる構造を作りました(筑波大学論文)。一方、佐賀県は大洗町の約102倍(面積2,440㎢・全20市町)という広大な県土が舞台です。そのため初期には「車で有名聖地だけを点と点で回り、市街地を素通りしてしまう」という課題がありましたが(追手門学院大学紀要2023)、県・市がトップダウンで「約200箇所の広域デジタルスタンプ網(宿泊2倍加点)+全20市町32枚のマンホール」を整備し、そこに「8,400人収容のSAGAアリーナ+市営バス『フランシュシュ号』+さがMICE商店」という都市型MICEハブを結合させたことで、広域周遊と中心市街地滞在を両立させる独自のハイブリッドモデルを完成させました。
第6章|広告・地域マーケティング実務への示唆──「語るストーリー」から「参加するストーリー(SAP)」へ、地域と人を動かす3つの法則
本調査の総括として、『ゾンビランドサガ』および沼津・大洗の比較分析から導き出される、自治体のシティプロモーション・観光周遊施策や企業のブランドマーケティングに直結する3つの実践的法則を提示します。
法則①:「語るストーリー」ではなく、生活者が主人公になる「参加するストーリー(SAPフレーム)」を設計する
なぜ『ゾンビランドサガ』のファンは、放送から8年以上が経っても佐賀へ足を運び、特産品を買い、佐賀市のGCFに4日間で300万円以上(最終560.2万円)もの寄付を行ったのでしょうか。その答えは、佐賀県広報広聴課・観光課の担当者が語った次の言葉に凝縮されています。
従来の広告や観光キャンペーンの多くは、自治体や企業が一方的に魅力を語る「語るストーリー」でした。しかし『ゾンビランドサガ』では、「佐賀県を救う(認知を広げ、経済を盛り上げる)」こと自体が物語のゴール(STORY)に設定されています。そのため、自治体や企業がスタンプラリーやコラボ商品、クラウドファンディングを打ち出したとき、来訪者はそれを「商業的な売り込み」とは感じず、「自分たちが地域を救う物語の続き(ACTION & PARTICIPATION)」として熱狂的に歓迎します。「来訪者のチェックイン・購買・宿泊・SNS発信によって初めて物語が完成する余白(SAP:Story → Action → Participation)」を設計することこそ、現代の地域マーケティングにおける最強のドライバーです。
法則②:「大型MICEハブ(点)」と「街なか個店ネットワーク(面)」をデジタルスタンプラリーとモビリティでつなぐ
佐賀市や唐津市の都市変遷データが示した通り、現代の地方都市では「大型集客施設(アリーナや郊外モール、有名観光地1箇所)に人は集まるが、歴史的な中心商店街には波及しない」という分断が起きています。これを解決するには、①宿泊や複数エリア回遊に2倍のポイントを付与するデジタルスタンプラリー(日帰り客90%の壁を破るインセンティブ設計)、②移動自体をエンタメ化する二次交通・経路ナビ連動、③来訪者を受け入れる商店街・個店側のスタンプ&クーポンネットワーク(「さがMICE商店」や沼津の「まちあるきスタンプ97箇所」)の3点セットを同時に実装することが不可欠です。
法則③:大洗・沼津に学ぶ「中小個店の参画ハードル引き下げ」と「アプリ不要の参加設計」がLTV(地域生涯価値)を決める
キャンペーンが一区切りを迎えた後も来訪者が通い続けるかどうか(LTVの最大化)は、「中小個店と来訪者の接点」にかかっています。大洗町で10年後も65%の事業者がコラボを継続し商店街の66%が増収を達成した背景には、小規模店舗やシニア店主でも負担なく参加できる仕組みがありました(自治研レポート、筑波大学論文)。また、観光客側にとっても「専用アプリのダウンロードや複雑な会員登録が不要で、店頭のQRコードを読み取るだけで3秒で参加できるWebブラウザ・PWA完結型システム」を採用することが、シニア層・ファミリー層・訪日外国人客の離脱を防ぎ、地域全体の回遊総量を最大化する決定打となります。
第7章|【実務チェックリスト】アニメIPを持たない地域の観光・商店街でも応用できる「デジタルスタンプラリー」10の設計ポイントと予算規模別モデル
第1章〜第6章で検証した『ゾンビランドサガ』および沼津・大洗・鷲宮の成功法則は、有名なアニメIPを持たない地域の観光協会・商店街・商工会議所・歴史文化街道・道の駅周遊においてもそのまま応用可能です。企画の検討や仕様整理にそのままご活用いただける「10の実務設計チェックリスト」と「規模別3つのシステム導入モデル」を以下にまとめます。
- 1. アプリ不要(標準ブラウザ・PWA完結)の採用:App Store等のダウンロード離脱(7〜8割)と訪日客の国制限を防ぐため、QR読取即起動のWeb方式を指定しているか。
- 2. 宿泊・遠隔スポットへの「加点インセンティブ」:日帰り通過型(90%超)を打破するため、宿泊施設や周縁部スポットに通常の2倍のスタンプ/ポイントを付与する設計か。
- 3. GPS+QRハイブリッド認証による不正防止:無人観光地・展望台・寺社にはGPS半径判定、飲食店・土産店には会計時QR提示を使い分けているか。
- 4. 「参加型ストーリー(SAP)」のテーマ設定:単なる景品抽選ではなく、「全社巡拝」「商店街の名店発掘」「地域の歴史再発見」など来訪者が達成感を得るテーマがあるか。
- 5. 現在地連動マップ&経路ナビ(二次交通)統合:スタンプ台帳から1タップで次のスポットへのGoogleマップ経路案内(徒歩・車・公共交通)が起動するか。
- 6. 個店への即時送客(デジタルクーポン消込):コンプリート時だけでなく「3箇所達成で商店街500円クーポン発券(店頭もぎり消込)」等の段階的還元があるか。
- 7. スポット紹介コンテンツ(記事・写真)の品質:ただスタンプを押すだけでなく、各スポットの由緒・名物・店主の想いを伝える紹介記事と写真が整備されているか。
- 8. 店頭QRポップ・ポスター印刷物の一貫手配:高齢の個店店主でも置くだけで運用できるラミネート加工卓上QRポップや周遊マップ印刷がセットになっているか。
- 9. 効果測定・報告用「統計CSV・アンケート」:日別・スポット別のチェックイン数、回遊傾向、居住地・年代・消費額アンケートをCSV出力できる管理画面があるか。
- 10. 都市圏・出発地へのWeb広告プロモーション連動:第1章の「域外認知ギャップ」を埋めるため、対象商圏へのYouTube広告やSNS広告が組み込まれているか。
7.2 事業規模・予算に応じた3つのデジタルスタンプラリー導入モデル(壱観企画 標準仕様)
| 導入モデル区分 | 想定される企画・事業規模 | 標準参考費用(税抜) | 主な仕様範囲・制作内容 |
|---|---|---|---|
| プランC: プロフェッショナル・フルオーダー開発 |
広域観光周遊・50〜125拠点以上の恒久的観光ポータル・歴史文化辞典周遊 | 2,800,000円〜 (税込 3,080,000円〜) |
特設ポータル&完全独自UI設計、50〜125拠点超の広域カスタムマップエンジン(エリア・属性フィルタ・距離ソート)、全拠点の現地取材・撮影・専門解説編纂、多言語ネイティブUI、デジタル記念証動的生成 |
| プランB(推奨): スタンダード・カスタム構築 |
地域観光キャンペーン・観光協会・商工会議所・温泉街・道の駅(15〜30箇所) | 680,000円〜 (税込 748,000円〜) |
地域ブランドに合わせたオリジナルUIデザイン、15スポット標準登録(追加可)、GPS+QRハイブリッド認証、宿泊加点・段階的デジタルクーポン消込、アンケート&実績報告用CSV管理画面、紹介文編集・写真補正、卓上POP基本デザイン1種 |
| プランA: ライトパッケージ(既製テンプレート流用) |
単発ミニイベント・展示会・5スポット以下の小規模回遊(※素材完全支給) | 148,000円〜 (税込 162,800円〜) |
※フルオーダー開発ではありません。弊社既製の標準テンプレート(固定レイアウト・5スポットまで)にお客様から完全支給された原稿・写真を流し込む低予算テスト導入向けパッケージ |
調査出典・参考文献リンク一覧(全24件)
- 一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)経済交流課(2019)「佐賀県のTVアニメ『ゾンビランドサガ』を活用した情報発信」
- 安本宗春ほか(2023)「アニメの聖地巡礼と観光振興 ─『ゾンビランドサガ』と『ガールズ&パンツァー』を事例として─」『追手門学院大学地域創造学部紀要』第8巻, pp.39-60
- 安本宗春ほか(2020)「アニメ聖地巡礼による地域活性化 ─静岡県沼津市『ラブライブ!サンシャイン!!』を事例として─」『追手門学院大学地域創造学部紀要』第5巻, pp.45-64
- 구자현・八木匡(2020)「アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』が沼津市に与えた経済効果」『NAIS Journal』Vol.14, pp.8-12
- 佐藤壮紀ほか(2016)「大洗町中心商店街における『ガールズ&パンツァー』の聖地巡礼による経済効果と持続性」筑波大学『地域研究年報』第38号, pp.61-87
- 地方自治研究全国集会(自治研)レポート(2022)「アニメによる地域活性化とまちづくり ~茨城県大洗町『ガールズ&パンツァー』の事例~」 / 全国町村会(2017)「茨城県大洗町におけるコンテンツツーリズムの推進」
- 佐賀大学経済学部 山本研究室(2024)「地方創生のための魅力発信とまちづくり ~佐賀県と唐津市を中心とした考察~」
- 佐賀県観光課(2015)「平成26年度 佐賀県観光客動態調査報告書」 / 唐津データバンク(2025)「データでみる唐津の観光・佐賀県宿泊統計」
- 佐賀市(2022)「都市再生整備計画(第2期)佐賀市中心市街地地区」 / 内閣官房(2022)「デジタル田園都市国家構想メニューブック:SAGAスマート街なかプロジェクト」
- 公益財団法人九州経済調査協会・CCCマーケティング総合研究所(2022)「西九州新幹線の開通効果(武雄温泉駅・嬉野温泉駅ほか来訪者分析)」
- 一般社団法人佐賀県観光連盟(2019)「『佐賀県×ゾンビランドサガ』スタンプラリー応募ハガキ数が前年比で約3倍!」 / (2020)「『佐賀県×ゾンビランドサガ』デジタルスタンプラリー開催」PR TIMES
- 佐賀市公式ホームページ(2026)「佐賀市と『ゾンビランドサガ』が連携協定を発表」 / 「令和8年8月25日 市長記者会見発表資料」
- 毎日新聞(2026)「佐賀市、『ゾンビランドサガ』連携に補正予算案 CFは目標超え」 / 読売新聞 ささっとー(2026)「『ゾンビランドサガ』で地域活性化!佐賀市が協定」
- 佐賀経済新聞(2024)「羽生結弦さん佐賀公演の県内経済波及4億8,000万円超」 / エイベックス・ピクチャーズ(2026)「佐賀市営バス『フランシュシュ号』運行開始」
- 劇場版『ゾンビランドサガ ゆめぎんがパラダイス』公式(2026)「フランシュシュ SAGA EXPO 2027 in SAGAアリーナ」 / 佐賀県立宇宙科学館(2025)「入館者累計600万人達成」
- たびらい佐賀(2019)「村岡屋『さが錦』コラボ商品発売」 / 佐賀りあん(2026)「ふるさと納税型CF目標金額達成」 / ブランドストーリー研究(2026)「『ゾンビランドサガ』に学ぶマーケティング」